「輝く今日を見つめて」2014.11.1

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セブンカフェ成功の裏にあった「30年戦争」
東洋経済オンライン 11月1日(土)6時0分配信
 セブン-イレブンの100円コーヒー、スターバックスの2000円コーヒー、「コーヒー界のアップル」ブルーボトルなど、最近、コーヒー市場をめぐる各企業の競争が加熱している。
 『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ! 』の著者である永井孝尚氏によると、「コーヒー業界をめぐり各社が打ち出す商品、ビジネスモデルは、最新ビジネス戦略を学ぶ好材料」だという。そこでコーヒーの裏側にある高度なビジネス戦略について語ってもらった。■ セブンカフェは実は30年選手だった! 
■ 4度にもわたる挑戦と失敗
 セブンの1回目の挑戦は、1980年代前半だ。1983年2月21日の日経ビジネスの記事「ケーススタディ セブン-イレブン ジャパン」ですでにこのように紹介されている。
「7846杯」。都内のあるセブン
-イレブン加盟店が某月1カ月間に販売したコーヒーの量である。1日で約260杯。平均的な喫茶店のコーヒー販売量は1日50?100杯というから大変なもの。こまめに足を運ばれる方にはよくおわかりと思うが、最近、セブン-イレブンではこのコーヒーをはじめ、弁当、ハンバーガー、サンドウィッチなど、手を加えずに即座に食べられる商品の品ぞろえが急速に豊富になりつつある。
 なんとこの時期、セブンではコーヒーが1日に260杯も飲まれる店がすでに存在していたのだ。この頃からコーヒーがセブンのビジネスに大きく貢献している様子がうかがえる。
 当時は、店頭のコーヒーサイフォンでコーヒーを作り、注文のたびに小分けしていた。しかしこの方法には問題があった。味と香りを保つため1時間ごとに作り替えるルールだったが、店舗が忙しく、マニュアルどおりに実行されないケースも多かったのだ。そこでこの方式を見直すことになった。
 2回目の挑戦は1988年。コーヒーマシンによる挑戦が始まった。注文を受けてから、その場で1杯ずつ作るドリップ方式に切り替えた。「これなら新鮮さが保てるし、余ったコーヒーを捨てないのでロス率も下がり、衛生管理も容易になる」と考え、木村コーヒー店(現キーコーヒー)がセブン用に開発したコーヒーマシンを3500店舗に導入。コーヒーの種類も1種類から「ライト」「ミディアム」「ビター」の3種類に増やした。
 しかしこの方式にも欠点があった。ヒーターの上にポットを長時間置いていることで、焼き芋のような異臭が店内に漂ってしまったのだ。結果的に、セブンはこの展開も断念せざるをえなかった。
 3回目の挑戦は1990年代。異臭の問題を解決するためにカートリッジ方式に切り替えたが、コーヒーを粉末状にしたために肝心の風味が飛んでしまい、味が損なわれてしまった。
 そして4回目の挑戦は2000年代。それまでのカートリッジ方式がうまくいかない一方で、この時期、スタバなどのカフェでエスプレッソやカフェラテが大人気になった。そこでセブンが始めたのが「バリスターズカフェ」。比較的最近のことなので、覚えている方も多いのではないだろうか。
まず2002年に数店舗でセルフ方式のエスプレッソの提供を開始。カフェラテも用意し、2005年には関西・東海地区中心に約1000店、最終的に2000店に展開し、「バリスターズカフェ」は安定した人気を得た。若い世代を中心に一定の客層の取り込みには成功した。
 しかし店舗当たり1日25杯の売り上げは、セブンにとってビジネス面で決して満足がいく結果でなかった。また圧縮抽出という方式は雑味まで拾ってしまう。エスプレッソはコアなファンがいる一方で、万人向けではなかったのだ。日本人の嗜好にはペーパードリップ式が合うという調査結果も得られた。
■ 5回目の挑戦を支えた、「スターチーム」
 4回もの失敗を経て、5回目に挑んだのは2011年。これまでの試行錯誤の経験を基に、幅広い客層にアピールするため、開発に2年間以上かけて、万全の体制で「おいしく飲みやすい本格派コーヒー」を目指した。
 しかし王者セブンと言えども、単独ではセブンカフェは実現できなかった。セブンカフェを生み出したのは、セブンならではの「チームMD(マーチャンダイジング)」だ。これは、セブンがプロジェクトリーダーとなり、原料・製造・資材・機材などを提供するメーカーと共同で商品を開発する仕組みである。
 まず200社のコーヒーの味を分析し、飲みやすさと飲み応えの最適なバランスを見つけ、万人受けするコーヒーの味を決めるところから始めた。
 1杯ずつ豆を挽いて入れられ、かつセブンが求めるコンパクトさのあるマシンは存在しなかった。そこで富士電機と協業、豆を挽くグラインダー、挽いた豆に空気を送り込み湯の中で攪拌する仕組み、出がらしを入れるバケツ、店舗オーナーの操作しやすさなどを徹底して吟味。1年間を費やし、小型新型コーヒーマシンを共同開発した。
 調達するコーヒー豆は、各国の最高グレードに限定。100%アラビカ種で、生豆の精製方法は焙煎時に雑味が残らないウォッシュド方式にし、さらに4種類のハイグレード豆を使用し、それぞれの特徴を引き出すダブル焙煎を採用。モニター調査を繰り返し、あらゆる場面に合う味を探った。さらに全国1万6000店舗に供給するために、安定して入手できることも重要だった。そこでコーヒー豆の調達は三井物産が担当。後に売り上げ拡大に伴い、丸紅も参加した。
紙コップ製作は東罐興業が担当。持ちやすさ、保温しやすさを追求した。
 意外に見逃しがちなのが、アイスコーヒーに使われる氷。小久保製氷冷蔵と協業し、溶けにくくて雑味が少ない氷を追求、24時間かけて不純物が少ない透明な水を製氷するようにした。
 ブランディングは佐藤可士和氏が担当。黒と白で統一されたさまざまなデザイン、コーヒーマシンのインターフェース、カップ、ふた、マドラー、ストロー、マシンなどのアートディレクションを担当した。「モノとしてコーヒーを売るだけではなく、カフェとして上質な時間を提供したい」との思いから、「セブンカフェ」という名前も生まれた。
 オールスターチームで万全の準備をして開発したセブンカフェ。しかしこれでうまくいくとはかぎらない。ここからが、セブンの真価発揮なのだ。
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