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1.『サンクコスト』の壁
サンクコスト=埋没費用
既に支払ってしまっていて、取り戻せない費用のこと
日本マクドナルドの一つの大きな武器はクーポンにあります。通常価格では
高い商品もクーポンを利用すれば、大変お得な価格で購入することができます。
このクーポンシステムに関して、日本マクドナルドの原田元社長は
日経新聞の取材に答えて、次のように述べています。
「一番効果があったのは(携帯電話に割引クーポンを配信する)eクーポン。
それまでは3カ月先を予約して新聞に折り込みクーポンを入れていた。それが
今なら『よし、今週末やろう!』とすればすぐできる。雨が降ったらやろう、
と。スピードと精度が高まる。eクーポンを店頭でかざせば情報を吸い上げら
れるので、こちらでは消費者の購買履歴がわかる。現在は携帯会員が1800万人
まで増えたので、今後はセグメンテッドマーケティングができるようになる」
記事では、日本マクドナルドがIT投資にそれまで300億円もの大金を投じ、
これから収穫期に入ることが伝えられています。
確かに割引価格で購入できるクーポンは、売上をアップさせる効果が
ありますが、大抵一時的なものであり、その後に襲って来る副作用で
業績が蝕まれていきます。
顧客はクーポンで購入する価格が基準となり、定価で購入するのは損だと
感じて、クーポンがなければ購入しなくなるのです。
また、クーポンに釣られる顧客は価格に敏感であり、ファンにはなりにくく、
他に安い商品があれば、躊躇なく離れていく傾向があります。
たとえば、長崎ちゃんぽんのチェーン店リンガーハットは、2005年、
外食チェーンとしてさらなる飛躍を目指すために日本マクドナルドで社長を
務めた八木氏を社長として招聘します。
八木氏は、日本マクドナルドで売上アップ効果のあったクーポン戦略を
リンガーハットに導入すると、通常価格が450円のちゃんぽんや皿うどんが
クーポンを利用すると100円引きとなり、わずか350円で食べられると
人気を博して一定の効果が上がりました。
この一時的な成功に気をよくしたリンガーハットはクーポンを乱発。
結果として、顧客には『ちゃんぽん=安物』のイメージが定着し、
次第に飽きられて2007年には多額の赤字を計上し、八木氏は引責辞任に
追い込まれることになるのです。
恐らく、日本マクドナルドにとっても、クーポンによる売上アップ効果は
段々低下しているはずですが、止めてしまうと顧客離れがさらに加速する
懸念があるうえに、すでにIT投資として多額の資金を投入しているわけです
から、「回収せずに止めてしまうのは避けたい」という意識も少なからず
あるのではないでしょうか。
ここに『サンクコスト』の壁があるのです。
サンクコストとはすでに投下した費用であり、
今後の事業計画には何ら考慮する必要のない費用です。
ですから、日本マクドナルドとしては、「これまでの多額の投資を取り戻す
ためにクーポンの使用は止められない」と、すでに投下した費用に戦術を
引きずられるのではなく、「今後業績を回復させるには何をするべきか?」
を考え、もしクーポンが必要なければこれまでに投下した費用はサンクコスト
と諦めて、現在取りうる最善の一手を打っていかなければならないのです。
『覆水盆に返らず』・・・このことを肝に銘じて、
『サンクコスト』の壁を乗り越えていく必要があるでしょう。
1.すでに投下した費用に将来の戦術が影響されてはならない。
2.過去に投資した資金を取り戻そうと、過去からの延長線上でビジネスを
展開すると大きな失敗につながる可能性も高くなる。
3.すでに投下した費用は『サンクコスト』と考え、ゼロベースで
「今後何をすべきか?」を検討することが事態を打開することにつながる。
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